2026.07.24

ミッドライフ・クライシス

精神医療の現場でミッドライフ・クライシス(中年の危機)という言葉あるようです。40〜50代という人生の折り返し地点を迎えて、これまでの生き方を問い直さざるをえなくなり、焦燥感や不安定さを抱える第二の思春期のことです。人生を考え直す好機と捉えることができれば良いのですが、うまくいく人ばかりではありません。誰もが羨む経歴の人であってもアルコール依存症に陥ってしまったりするので、中年のうつは深刻だと言われています。ここ数年で「適応障害」の診断を受ける患者さんが多いように思います。私の知っている人もそのために退職した人もいます。適応障害は仕事の人間関係やパートナーの浮気など特定のストレスが原因で、その環境にうまく適応することができず、生活に支障をきたす状態のことです。タレントが芸能活動を休止する時に公表することもあり、広く病名が知れ渡るようになりました。メンタルドクターのSidow先生は、適応障害を「パンツ1枚で極寒の地にいるみたいな状態」と例えているのをYoutubeで見ました。つまり、そのままずっと同じ環境にいれば、身体を壊してしまう状態ということです。これは適応できない本人が悪いわけではありません。彼らに取っては症状が出て当たり前の環境なのです。うつ病と違って適応障害はストレスの原因がはっきりしているので、苦しい環境から「離れる」と症状が改善されることが多いのです。適応障害の場合は職場復帰の有無は本人の有する社会適応能力と強く関連することが容易に予想されます。実際の現場でが、本人の要求がすべて会社に通る事は困難ですし、会社側も可能な範囲での融通を利かせないと本人に職場復帰をさせる事は困難です。すなわち、職場復帰を考えるのならば本人と職場との間でどこかの折り合い点(落とし所)を見つける必要があります。私は以前、産業医として関わることが多かった際には、家族、主治医からの情報収集をした上で頻回な面談を行なっていました。その際には精神科医の休業期間を短くしていただいてこまめに診察いただいた上で、本人の性格傾向や認知パターン(考え方の癖)などを十分に考慮した上で現実的な範囲で職場と個人が歩み寄り妥協点を模索する作業を早期から始めていました。単に薬を処方してまた、長期の休業期間を記載した診断書を与えるのは、本人に保護的に接する対応としては良いかもしれませんが、患者のシックロール(自分は病気だという特権意識)をただ強化するにとどまることになるのです。それがひいては長期の休職状態につながるのです。適応障害の患者さんの対応は、性格傾向、思考・行動パターン、ソーシャルスキルなどについて共に話し合って、本人に共感を示しつつも内省・洞察を促すことが大切です。自己愛が強い場合は、被害者意識が強いのでこの作業がなかなか進みません。最も重要なことは本人が最適応したいという強いモチベーションがあるかということです。ただ仕事を辞めたいからといって精神科医に診断書を記載してもらうことも少なくはありません。適応障害で休職した場合は、上司・同僚に仕事の皺寄せがあり、意識的・無意識的にどうしても陰性感情が芽生えてしまいがちです。さらに、ソーシャルスキル(例えば、挨拶する、礼を述べる、詫びる、職場の掃除をする・仕事を手伝う・雪かきをするなど)が乏しいことも稀ではありません。適応障害と診断されたのちに、大うつ病性障害、双極性障害、気分変調性障害などに診断が変更になる場合も散見されます。万人に適応する職場を作るのが一番ですが、診断された場合は細やかなフォローが必要になることを忘れてはいけません。