コレステロールの濡れ衣
昨日は「寒露」にちなんで寒さと血管のリスクについてお話ししましたが、本日は血管の健康を語る上で欠かせない「脂質(コレステロール)」にまつわる、ちょっと意外な歴史のお話です。1955年、当時のアメリカ大統領アイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたニュースは世界を震撼させ、「何が心臓病の原因なのか?」という大論争を巻き起こしました。この時、一躍注目を浴びたのが「飽和脂肪酸(脂質)こそが悪の権化である」という説で、これをきっかけに世界中で「卵は1日1個まで」といった極端な脂質制限が定着しました。しかし、近年の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」等では、食事によるコレステロール摂取が血中レベルに与える影響は個人差が大きく、一律の制限よりも「脂質の質」や「全体のバランス」が重視されるようになっています。実はコレステロール自体が即座に悪さをするわけではなく、血管に炎症が起きた際、それを修復するために集まってくる「火事場の消防士」のような側面もあります。歴史的な誤解は、現場にいつも消防士がいるから彼らが火事を起こしていると決めつけてしまったことに似ていますが、真の悪役は消防士を呼び寄せる「血管の炎症」や「酸化した脂質」なのです。現代のガイドラインでも、単に数値を下げるだけでなく、善玉(HDL)と悪玉(LDL)の比率である「L/H比」や、喫煙・高血圧などのリスク因子を総合的に判断することが推奨されています。当クリニックのブログでも過去の自分と比べる健康管理:健診結果を点ではなく線で読み解く重要性についてお伝えしていますが、脂質こそ数値の推移を追うことが重要です。ナポレオンが寒さに敗れ、アイゼンハワーの時代に脂質が誤解されたように、正しい知識がないと健康を守る戦いには勝てません。本格的な冬を前に、まずはご自身の「血管の地力」をチェックしてみませんか。秋の味覚を楽しみつつ、賢く脂質と付き合っていきましょう。