寒さと血管の「歴史的」な関係
こんにちは、いりたに内科かかりつけクリニックの入谷敦です。本日、10月8日は二十四節気のひとつ「寒露(かんろ)」にあたります。草木に降りる露が冷たく固まる時期とされ、暦の上ではいよいよ秋が深まり、冬の足音が聞こえ始める頃です。実は、この「寒さの始まり」という時期は、医学の歴史においても、私たちの健康管理においても、非常に重要な意味を持っています。歴史を振り返ると、寒さが勝敗を分けた有名な戦いがいくつもあります。最も象徴的なのは、1812年のナポレオンによるロシア遠征でしょう。無敵を誇ったフランス軍を壊滅させたのは、敵軍の攻撃以上に「冬の将軍」と呼ばれた猛烈な寒波でした。当時の兵士たちは、極寒の中で血管が収縮し、血流が滞ることで「壊疽(えそ)」や「心不全」に苦しみました。現代の私たちは戦場にいるわけではありませんが、この「寒さによる血管の収縮」という生理現象は、現代人の健康を脅かす大きなリスク要因となっています。寒露を過ぎると、朝晩の冷え込みが一段と厳しくなります。私たちの体は、体温を逃がさないように血管をギュッと縮めます。これにより、ホースを指でつぶした時のように血圧が急上昇しやすくなるのです。特に注意が必要なのが、以下の3つのポイントです。一つ目はヒートショックの予兆で、暖かいリビングから冷えた脱衣所やトイレへ移動する際の温度差が血管に急激な負荷をかけます。二つ目はモーニング・サージで、朝、布団から出る時の冷気は、交感神経を過剰に刺激し、血圧を跳ね上げます。三つ目は「隠れ脱水」の罠で、夏が過ぎると喉の渇きを感じにくくなりますが、空気の乾燥により水分は失われ続けており、血液がドロドロになりやすく、血管が詰まるリスクが高まります。江戸時代の養生家・貝原益軒は、その著書『養生訓』の中で、「冬は早く寝て、日の出を待って起きるのが良い。寒さを避けて暖かく保つことが、気を養う基本である」と説いています。現代風に解釈すれば、「無理な早起きで冷気にさらされないこと」や「首・手首・足首の『3つの首』を温めること」が、血管を守るための最もシンプルで効果的な防御策となります。現在、当クリニックのブログでも過去の自分と比べる健康管理:健診結果を天ではなく線で読み解く重要性について連載していますが、この時期こそ、ご自身の「基礎血圧」や「血管の状態」を知っておくことが大切です。ナポレオンの軍隊には十分な防寒設備がありませんでしたが、現代の私たちには「知識」と「医療」という武器があります。本格的な冬が来る前に、一度ご自身の血管の健康状態をチェックしてみませんか?秋の深まりとともに、心穏やかで健やかな毎日をお過ごしください。