2026.10.02

夜間の静かなる大パニック

こんにちは、いりたに内科クリニックです。10月2日を迎え、秋の夜長を快適に眠れる季節になりましたが、みなさんは毎晩ぐっすり眠れているでしょうか。実は、秋になって寝室の窓を閉め切るようになると、家族から「夜中のイビキがうるさい」「たまに息が止まっている」と指摘されて受診される方が増える時期でもあります。今回は、そんな身近な「イビキ」の裏に隠された、面白くてためになる医学のお話をお届けします。ただのうるさい癖だと思われがちなイビキですが、医学的には「気道という空気の通り道が狭くなり、そこを空気が無理やり通るときに喉の粘膜が震えている音」です。そして、この気道が完全に塞がってしまい、数十秒間にわたって呼吸が止まってしまう病気が「睡眠時無呼吸症候群」です。この病気の恐ろしいところは、本人が眠っているため、脳や身体が毎晩のように凄まじい大パニックを起こしている事実に全く気づけない点にあります。息が止まると、当然ながら血液中の酸素の濃度が急激に低下します。すると脳は「このままだと窒息してしまう」と危機感を覚え、身体を無理やり起こすために、交感神経を限界まで興奮させるアドレナリンを大量に分泌します。これにより、眠っているはずの心臓は猛烈にバクバクと動き出し、血圧がドカンと跳ね上がります。つまり、本人は静かに寝ているつもりでも、体内では毎晩のように「全力疾走で坂道を駆け上がっている」のと同じ状態が繰り返されているのです。これが一晩に何十回、何百回と起きれば、翌朝に強い疲労感が残ったり、日中に強烈な眠気に襲われたりするのも当然です。さらに最新の医学研究では、この夜間の激しい血圧の乱高下が血管の壁を傷つけ、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を劇的に悪化させ、将来的に脳卒中や心筋梗塞を起こすリスクを数倍に跳ね上げることが証明されています。睡眠時無呼吸症候群は、まさに寝ている間に血管をボロボロにする「夜の生活習慣病」なのです。この病気は、適切な検査を受け、寝るときに専用のマスクを装着して空気を送り込む「CPAP(シーパップ)」という治療を行うことで、劇的に睡眠の質が改善し、日中のパフォーマンスだけでなく、血圧の数値まで綺麗に下がることが分かっています。自分では気づけない病気だからこそ、家族からの「イビキの指摘」は身体が発してくれている大切なSOSのサインです。ご自身やご家族の夜の睡眠に少しでも気になるサインがあれば、いつでもお気軽に当院までご相談ください。