2026.10.28

晩秋に「体からの便り」を聴く:数値を超えた予防医療と自分を労わる養生術

私たちは、自分の体のことをどのくらい知っているでしょうか。金沢の街に冬の足音が近づく10月28日。朝、顔を洗うときに触れる水の冷たさ、犀川沿いの坂道を上った後に少しだけ速くなる鼓動、あるいは夕暮れ時に感じるかすかな足の重み。それらはすべて体から発せられている大切な「便り」です。現代を生きる私たちはあまりにも多くの情報を外側に求めてしまいますが、最も純度の高い答えは常に自分自身の内側にあります。健康管理を血液検査や血圧の数値だけで判断してしまうのは少しもったいない気がします。それらの数値は人生という物語の一瞬を切り取った「点」に過ぎません。大切なのはその点を繋いで「線」にすることです。「去年の冬に比べて今年は冷えが体にこたえるな」といった過去の自分との対話こそが、金沢で健やかに暮らすための自分だけの健康の地図を作ってくれます。東洋医学では季節の移ろいと体の変化を密接に捉えますが、忙しい毎日の中で五感を取り戻すのは難しいことではありません。加賀棒茶を淹れたときの香りを一秒だけ長く吸い込んでみる、雪吊りの準備が始まった道を歩くときに足の裏が地面を捉える感覚を意識してみる。たったそれだけのことで脳は今ここにある体を再認識し、自律神経を整えるスイッチが入ります。いりたに内科かかりつけクリニックの役割は、皆さんの「体からの便り」を一緒に読み解く通訳者のようなものだと思っています。「なんとなく調子が悪い」という言葉の裏にある生活の背景を共有しながら、健診結果という点にあなたらしい線を引いていくお手伝いをすること。それが金沢の地で私たちが目指す本当の意味での予防医療です。自分を労わることは決して贅沢でも甘えでもありません。今夜、眠りにつく前に自分の掌をそっと胸に当ててみてください。今日一日、休むことなく働き続けてくれたその鼓動に意識を向けるその一分間こそが、次の十年の健康を支える最も贅沢な養生になるはずです。