疾病利得

昨日の続きの話題をします。産業医の働きで一番大事な仕事として私個人は思っているのですが、
会社で働く人が安全で安心して健康的に働けるよう、企業に「勧告」することです。
例えば、工場勤務で3交代制勤務であり、大きな機械を用いていて作業に取り組んでいる人で
長時間労働かつ血圧コントロール不十分な人がいた場合は、心筋梗塞や脳卒中などの血管事故が
起きる可能性・リスクが高い状態です。その際には、労災のリスクがあるので働き方を改善して
いただくように勧告するのです。ですが、この勧告は法的にかなり強いので、多くの場合は意見
するという形をとっています。
我々産業医は企業の味方のように思われることもありますが、あくまで中立の立場です。
企業の利益も守らなくてはいけませんし、労働者ももちろん守ります。そのため、労働者の主治医
と企業、本人の間に立って落とし所を見つけることが産業医の腕の見せ所なのです。
立ち位置が難しいので、企業によってしまうと労働者が孤立してしまいますし、労働者によると
企業からは何?ということになります。
以前経験したことですが、半年前に脳梗塞を発症した方がおられました。夜勤を控えていて、
「血栓ができるリスクがあるので、夜勤から日勤に配置転換してほしい」と会社に希望を提出。
結論的には主治医からもそのような指摘はなくて、患者さん本人がインターネットで調べて、
「血栓ができやすい」と話を作ったようです。疾病利得というのは、病気であることを盾にして
得を使用、楽をしようとする心理が働いてしまう場面があると思います。どこまでが疾病利得と
言えるのか、どこまでの就業配慮が必要なのかは、中立の立場の産業医がアドバイザーとして
振る舞わなくてはいけません。産業医は診断も治療も不要ですが、ただひたすら健康的に働ける
のかどうかを判断して、健康を管理するという役割なのです。