2026.03.28

オギノ式避妊法に迷惑した荻野久作

妊娠中の妊婦は、さらに妊娠することはない。この原理を用いて卵胞ホルモンと黄体ホルモンの割合を妊娠に似た状態に配合した経口避妊薬がピルです。極めて強力な排卵抑制作用を持ちますが、血栓形成などの副作用もあるので注意が必要なのです。女性の生理は10歳前後に始まって、50歳前後までおよそ40年間続くのです。しかし、世界中の学者にとって、排卵がいつ起こるのかは長い間、不明のままでした。欧米では28日周期の月経周期が多く、月経が始まってから14日後に排卵が起こるという説が信じられてきました。ですが、30日型の多い日本人女性は当てはまりにくく、欧米の説は疑問視されていたのです。新潟市の産婦人科医である荻野久作はこの謎に取り組んだのです。東大医学部を卒業後、産婦人科医局から新潟市の私立竹山病院に就職しました。診療の傍ら応対の研究を行い、「排卵は月経の後に起こるのではなく、月経の12日から16日の間に起こる」という新説を発表して世界の学会で認められたのでした。この説は黄体の寿命を明らかにしたもので、受胎期や安全期の計算に科学的な根拠を与える基となったのです。一般には「オギノ式避妊法」として有名なのですが、他の婦人科の医師たちによるオギノ節の応用であって、荻野久作が提唱したものではないのです。オギノ式を実行するには長期間基礎体温を計測してから避妊日を計算するのですが、かなり難しく失敗例も多くあったようです。オギノ式の創始者として誤解された荻野久作は、生前に失敗した人たちから随分恨まれて、迷惑を被ったようです。彼が一開業医として世界的発見を成し得たのは、探究心と学問に対する情熱・執念だったに違いありません。また、当時は月経や性交をあけすけに口に出せなかった時代なはずですが、彼の周囲の人間関係が濃密かつ個人的な秘密をフランクに口にできることができたからなのでしょう。カトリックは原則、コンドームやピルによる人為的な避妊を認めていません。ですが、オギノ式だけはローマ法王(2019年から教皇)が例外として認めた勇逸の避妊法なのです。すごいですね。