ひょっとこは顔面神経麻痺!?
顔面神経麻痺と聞いて「あ〜アレね」と思った方もおられるはず。ほとんどがベル麻痺(末梢性顔面神経麻痺)なのです。大昔、汽車での移動が当たり前だった時代に、汽車の窓を開けたままにして眠ってしまい、冷風が頬に当たり顔半分が麻痺する患者さんが多かったようです。ここ最近はウイルス感染によるものが大半なようですが。そのような人々に病歴を伺うと、たいていは体調を崩した時に発症するものなのです。最初は、歯磨きで口から水が漏れたり、口の内部が半分ざらついたり、顔面筋がピクピクしたりして気づきます。まぶたのピクつきは違いますよ。症状が出揃うと麻痺した側の口角が強い力で引っ張られて、鼻唇溝(ほうれい線)が消失します。顔の半分が動かず、額の皺は片側のおでこに偏るのです。麻痺した側の瞼が閉じにくくなって、目は充血します。ルーブル・ノートルダム美術館に展示されている15世紀ヨーロッパ彫刻にまさにベル麻痺(顔の片側の筋肉が動かなくなる病気)の典型的な症状を表したものがあります。要するに大昔からあったのですね。患者さんも最初は鏡を見て己の形相にびっくりするらしいです。恥ずかしくて外出もできない人もいます。眼帯をしている患者さんもおられますが、目が閉じにくいので眼帯の下が涙に濡れて皮膚が痒いと訴える方もいます。ものを食べると片側の口内に溜まってしまい、食事の際に頬の内側を思い切り噛んでしまう場合もあります。会話をするにも口がいびつに開いて話しにくいので口元を指で押さえながら喋る人もいます。特にマ行、パ行、バ行が発音しにくいようです。ストローを吸ったり暑いものを吹こうとすると口先がひょっとこのように曲がってしまうこともあるのです。確かにベル麻痺の表情は昔から各地にある伝統郷土品のひょっとこ面によく似ています。Z世代はひょっとこ面を知らないかもしれません。『鬼滅の刃』に登場する刀鍛冶(鋼鐵塚蛍など)が被っているアレです。ひょっとこ面はベル麻痺患者さんを写しとって始まったのかもしれません。昔もあったベル麻痺、それを見て笑った人たちが、このお面を作ったのではないかと想像してしまいます。ひょっとこは火を吹く時の顔を面白く表現したもので、火男(かまどで火吹き竹を使う人)がなまった言葉らしいです。昔はおかめと共に道化役として神楽の種まきや魚釣りの舞に登場して潮吹きとも呼ばれたようです。ベル麻痺は2、3日前から子供の声やテレビ・ラジオの音がやたらに耳に響いて苦しかったと話す患者さんもいます。顔面神経支配の細く緊張筋のはたらきが悪くなるからでしょうか?有名なムンクの「叫び」もベル麻痺の症状だったのかもしれません。あの耳を塞ぐゼスチャーと惨めで悲しげな表情はベル麻痺の始まりの本当に初期の症状かも知れませんね。