便移植
今日の話題は移植は移植でも便つまりウンコの移植の話です。我々の腸管には多くの種類の腸内細菌が存在しています。その絶妙なバランスによって、腸管の免疫系が適切に活性化されています。それには制御性T細胞(2025年にノーベル賞受賞した阪大:坂口教授が解明)やIgA抗体(免疫に関わる抗体)など様々なメカニズムが関わっていることがわかっています。当然のことながら、正常な腸管細菌叢が破壊されてバランスが崩れると、様々な疾患の原因となってくるのはご存知の通りです。我々が外来など患者さんをみていて経験することにClostridium(Clostridiodesに変更)dificile感染症による偽膜性腸炎があります。抗生剤を内服することで正常な腸内細菌叢が破壊され、本来強くないC.dificileが台頭して腸管の粘膜に偽膜を形成して毒素を産生し、激しい下痢症状を引き起こします。結構ひどい下痢です。C.dificileは薬物がなかなか効かずに治療に何十するケースが多々あります。治療法としてこれまた抗生剤のバンコマイシンや寄生虫を殺すメトロニダゾールの内服、腸管洗浄が推奨されていますが、再発率が高く60%にも及ぶと言われています。さらにバンコマイシンは薬価も高く奏功率も決して高くないのです。八方塞がりじゃ!と思いますよね。そんな腸内細菌の乱れに対して、最も直接的な治療法として近年注目されているのが荒廃した腸内細菌叢に健常人の腸内細菌を移植することにより正常な腸管機能を再獲得する方法、つまり、健常人である他人の便を患者の腸管内に投与する方法が試みられています。これまで世界中で300人以上に臨床試験が行われていて、最近の報告では、バンコマイシン投与群は奏功率が31%であったのに対して対象群は94%にまで上昇し、再発率も6%に低下したとされています。他人の汚物を消化管内に投与することに抵抗を覚えるのは当然ですよね。NASA(米国航空宇宙局)やJAXAでは実は以前から自分の調子の良い時の便を保存して宇宙に持っていき投与する方法をとっていたようです。かなり先取り、かつ自分の大便なので文句なしです。今、消化器内科でホットな分野であるクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患も、腸内細菌叢のバランスの乱れが病態と深く関わっていて、多くの臨床研究が行われています。慶應大学でも試験的に潰瘍性大腸炎の患者に親族の便を移植する「便微生物移植」が行われています。