心も移植されるのか?
心臓移植はだいぶん身近に感じられるようになってきたのではないでしょうか?2020年はコロナの
影響で54件と減少し、2021年は59件、2022年は79件、2023年は115件でした。日本初の
札幌医大の和田移植が心臓移植を結果として遅滞させてしまったことは皆様も耳にしたことがあると
思います。私は国立循環器病センターで心臓移植の前後の状態の患者さんに携わった経験があります。
そこで、先輩医師から不思議なことを聞かされたのです。心臓移植後に好物だったものが嫌いになり、
逆に食べたくないものが好物になる人がいるんだよ。と…にわかに信じがたい気持ちでした。心は
脳に宿っている誰もが疑わない事実です。でも、確かにご本人に伺ってみても移植後に変化があった
というのは紛れもない事実なのです。え〜本当〜って思いませんか?つまり、移植によりドナー
(臓器をくれた人)の資質や特性が移行する感覚を持つ人がいらっしゃるのです。
米国のコロラド大学による研究で、臓器移植を受けた患者さんの89.3%が何らかの性格変化を
経験していることが判明しています。さらにハワイ大学とアリゾナ大学の共同研究では、食や芸術、
仕事に対する好みが変わったり、自分の経験にないはずの「ドナーの記憶」が頭に浮かんだりと
不思議な現象まで報告されているのです。例えば、プールで溺死した3歳の少女からの心臓を移植した
9歳の少年は、それまでプールで泳ぐのが好きだったにも関わらず、術後から水をひどく怖がるように
なってプールに近づかなくなったそうです。また、勤務中に顔に銃弾を受けて殉職した34歳の警察官
の心臓を移植した56歳の男性は「顔に強い光と熱を感じる夢」を頻繁に見るようになったそうです。
このようにドナーの記憶が移る理由は今のところ解明されていません。記憶は脳だけで保存される
のではなく、すべての細胞が何らかの形で記憶を持つ、という説もあります。
不思議なことって意外に身近に起きているんですね。
Pearsall P, et al : Intergr Med,2:65-72,2000
Carter B, et al : Transplantology,5:12-26,2024