2026.01.06

まゆは蝶々を解き放つの

キュブラー・ロス博士は米国の精神科医で、死の受容の5段階、否認、怒り、取引、抑うつ、受容から成り立つことを示したことで有名です。人が市や大きな喪失に直面した際に、心理的にこれらの段階を経て死を受け入れていくプロセスを表しているのです。博士は世界的ベストセラーになった「死の瞬間」や「続・死ぬ瞬間」の邦訳で日本でもよく知られている女医さんです。彼女は末期癌の患者が逃れることのできない死をどう需要するのかの心の格闘を精密に分析して先の本を書いたのです。感動的な本です。その中で繭と蝶と言う比喩を使って表現している節があります。『あなたは蝶みたいなものです。鏡に映っているのは繭なのです。それは本当のあなたにとっての仮の住まいにすぎません。その繭が修復不能なほど損傷を受けるとあなたは死に、物理的エネルギーで出来ている繭は、象徴的に言えば、腸を解き放つのです。死ぬ瞬間、あなたはとても美しくなります。今のあなたよりずっと美しくなります。完璧になるのです。』これだけ聞くとさっぱり・・・と思われる方がほとんどでしょう。この表現の裏には、若きキュブラー・ロスが、ポーランドのマイダネク収容所で経験したことに起因するのです。虐殺された29万人もの子供たちが、人生最後の夜を過ごした収容棟に入ると、その壁に子供たちが爪や石、チョークの破片で刻んださまざまな絵が残されていました。一番多かったのが蝶。その時キュブラー・ロスはなぜ蝶の絵が残されていたのか理解できませんでした。医師になって多くの亡くなる人を看取りながら、肉体は蛹のようなもので、それが修復できないくらい壊れてしまうと、内部の蝶すなわち魂を解き放つと言う考え方を持つようになります。わかりやすく言うと輪廻転生みたいなものです。以前、彼女が京都のトランスパーソナル国際会議で講演をした際に、「我々が死んだら、どうなるのか?」についての講演をしたそうです。彼女は蘇生患者(死の状態になって息を吹き返した患者)から実際に話を伺ったそうです。彼らの話には共通点があり、自分の肉体が見えたと言うのです。盲目の人も立ち会っていたキュブラー・ロス博士のセーターの色やアクセサリーまで蘇生した後に正確に答えたのです。また、先に亡くなった愛する人たちが傍にいたという事、また、なんとも言えない慈愛に満ちた愛の光に包まれた体験をしているのです。この死後の体験をした後に、彼らは息を吹き返しているので「死後の世界はある」とキュブラー・ロスは断言しています。彼女のすごいところは、既成宗教の来世説や天国説に基づいているのではなく、あくまで蘇生体験者の体験談をもとに自信をもって語っているのです。末期癌の患者さんにロス博士のこの話を丁寧に説明できれば、どんなに慰めを受けることができるのでしょう。「あなたは死んだお母さんにまた会えるのです。蘇生した人たちがそれを証明していますよ」と息を引き取る人に言ってあげたい気持ちになります。愛したものと再開できる。そういう世界が死の後にある。母や友人や兄弟に再会できるための死。そういう死であれば我々はもう怖くはありませんね。