アルツハイマー病の誕生
1906年11月3日、チュービンゲンで開催された第37回南西ドイツ精神科医学会午後の部の
発表で「大脳皮質における特異で重篤な疾患の経過について」をアルツハイマー博士が発表した
のです。1906年は明治39年で日露戦争の年です。博士が発表したのは、51歳のアウグステ・D
夫人についてでした。記憶力は著しく低下して、モノの名前は言えても直後に忘れ、文章は1字ずつ
区切って読み、書字は1つの音節を繰り返し書き、手足は利く状態であるのに物が使えない状況で
した。認知症は徐々に進行して最後は無欲状態で寝たきりとなって、発病後4年半で死亡したのです。
博士は萎縮した大脳皮質の病理所見を示したり、アルツハイマー病で特徴的な神経細胞が死んでいる
神経原線維変化が異常に形成されていることを示し、現在でも話題になっているアミロイドβの沈着
とされている老人斑の存在など、この病気の基本像を余すことなく捉えているスライドを発表した
のでした。アルツハイマー博士のすごいなと思うのは、病気、病理を捉える観察眼はもちろんですが、
この発表の締めくくりに、「我々の眼前には特異な疾患があることは明白ですー成書に記載されている
以外にも、たくさんの精神疾患があることは疑う余地がありません。そのような中から、後日、
組織学的検査により新たな疾患が確認されることでしょう」とお話ししたと記録に残されています。
なんて素晴らしい医者なんだ!と正直思いました。写真では気難しそうなオッサンだと思っていたのに。
この日、この瞬間にアルツハイマー病が誕生し、博士の師匠であるクレペリンは1910年に改訂した
教科書にアルツハイマー病を書き加えたのです。ちなみに、アルツハイマー病は脳の病理を引き起こす
病気の概念であって、アルツハイマー型認知症はアルツハイマー病が原因となって起こる認知症のことを
いうのです。混同している医者も多いのでこのブログを見ている方は違いのわかる人になって下さいね。