2025.06.20

プラセボ効果

20数年前まだ医者3年目の時のことです。ある程度のことはできる(のではないか)と自分を信じ、

田舎の総合病院の当直をしていました。珍しく救急外来からのコールはなく穏やかな夜だったのですが、

入院患者で痛みを訴えると連絡があり診察をしました。患者さんは糖尿病があり、血管がボロボロの

状態で閉塞性動脈硬化症という病気で両足とも膝から下で切断されている方が、ないはずのつま先が

痛いというのです。いわゆる幻肢痛です。ないはずの手や足が痛みを感じる現象です。

看護師さんに聞くと、痛みの発作が出ると強い痛み止めの注射しか効かないとのことでした。

診察すると確かに額から汗を流してとにかく痛みを除いてあげなくては・・・という状況だったのです。

主治医からのお決まりの指示が大体あるのでそれに沿って注射してあげて下さいと看護師さんに指示を

したところ、その看護師さんが袖を引っ張り部屋の外に連れ出し、もう◯回も打っていますよ。

本当に大丈夫なんですか?そんなに注射して!というではありませんか。な〜んてうるさい看護師だと

内心思いながら話を聞いていると、少し前まではピンピンしていて仮病では?というのです。でも

仮病であんなに汗かくぐらい痛がるかね?というと「はい!嘘つきます」というのです。確かに

患者さんの癖などは病棟の看護師さんがよく知っているので情報を聞くことが一番なのです。

その看護師さんの提案も飲みながら、痛み止めとして生理食塩水を注射してみました。実際、偽薬を

駐車するなんて外道だと思っていましたが、結果見事に看護師さんの見立てが当たり、痛みは取れて

朝まで熟睡したのです。これは仮病ではなくプラセボ効果なんだと後で思い知りました。

それ以降、その患者さんは私が指示する薬は特別な薬だと思い込み、私が当直ではなくてもなぜか

呼び出され指示を仰がれてしまう不思議な関係性が続きました。その後無事退院するのです。

プラセボ効果というのは、このように本来は薬効がない薬(偽薬)を投与したにもかかわらず、

患者さんの病状が良好に向かってしまうような治療効果のことを言います。メカニズムは完全に

解明されていないはずですが、脳の学習効果に関係しているはずです。人は思い込みの力で

自然治癒力をアップさせてしまうようです。ちなみにこの看護師さんは私の奥さんです。