2025.09.25

世界初の人工発がん

今ではがんの実験となると、遺伝子変異やがん細胞を移植させたりと手技的なお作法が決まっているの

です。ですが、昔はよくわかっていないがん細胞を人工的に発生させるという実験がくりひろげられて

いたのです。山極勝三郎先生はがんができるまでは決して止めない覚悟で、何十匹もの兎の耳にひたすら

コールタールを縫っては剥がして、剥がしては塗るという作業を継続したのです。と言っても、結核の

患者である山極自身がやれるわけでもなく、その仕事を任された東北帝大農科大学畜産学科出身の

熊のようにタフな市川厚一が根気良く継続していました。

なんで兎の耳なのか?東大の病理学教室ではウィルヒョウのがん刺激説を実証しようとして、キシレンや

クレオソートの兎耳皮膚塗布実験が行われていたのです。長い兎の耳は表裏からも塗布しやすく、

観察も容易であったのですが、今日まで偶発的な癌腫の発生を見聞したことがなく、耳にできるがんの

遺伝とかあるいは遺伝的基礎などは、ウサギの場合論外であり、問題となるのはコールタール塗布のみ

であるからです。大正4年夏にたまたま登校した山極に市川は「がん性化」し始めた1例とがん化した

2例を見せて、成功を確信したのです。

この成果が同年9月25日の東京医学会特別例会で「上皮腫瘍の発生に関する実験的研究」として発表

され、今ではその日つまり今日を「兎耳人工癌発生記念日」と定めています。