医は仁術
古代の中国に董奉という名医がいたそうです。貴賤の区別無く患者を治療し
人々から大いに尊敬されました。治療代の代わりに杏の実を植えてもらったところ、
数年もすると十万余りの鬱然たる杏の林となりました。のちに杏を売って得た穀物を
貧民に施したと言います。この中国の故事から人々は、董奉と患者の間にある信頼関係を
「医は仁術」の理想的な関係として賛美して、その後良医を「杏林」と称しました。
ですが、いつの時代も医師と患者の関係は、必ずしも良好であったわけではありません。
ルネッサンス時代も「医者の比喩」と言う題材の絵画には、医者は患者が苦しみ救い
を求める時は神の顔で、治療費を請求するときは悪魔の顔に見えると描かれています。
江戸時代の川柳は「医は仁術と礼もせぬ薮患家」と詠っています。
先日、外来でのやりとりで患者さんが帯状疱疹を疑って来院されました。発症と思われる
日から既にある程度経過しており通常の帯状疱疹であれば皮疹、水疱ができているだろうと思い、
きちんと診察するつもりで皮膚を見せて欲しいとお願いしました。ですが、拒否。
「皮膚科の先生でも皮膚を見ることなく、診察することはしないと思うよ」と説明しましたが、
ご理解得られずでした。肌を見ることなくだけではなく、診察することなく診断には結びつく訳もなく
私はわかりませんと説明しました。このやりとりに不満をお持ちだったようで後日クレーム。
帯状疱疹で無疹性帯状疱疹というのもありますが、さすがに皮膚科の先生に診ていただいた方が
良いのは自分の実力を知っている私が言うのですから間違いありません。
以前、麻生元首相が「医師には社会的常識がかなり欠如している」と発言がありました。
確かに全て否定できるわけではありません。確かにそうかもしれません(少なくとも私は)。
ですが、ドクハラやモンスター患者なる言葉があるように、医療訴訟の件数が増加傾向であり、
医師と患者の心の距離が遠く離れてしまっている感があります。
「仁」と言う字は人が敷物(二)の上に座る形で、暖か、和むの意味から、「いつくしむ、めぐむ」
の意味に昇華したと言われています。
医師と患者は複雑な関係ですが、お互いに温かい信頼関係を築きたいといつも考えながら診察しております。
今日は愚痴ってしまいました。申し訳ありません。