忘れられない患者さん
医者は誰しもが学生だった時期があり
誰しもが学生実習で初めて患者を受け持ったことがあります。
ちなみに、私は医学部5年生の時に小児科から実習が始まり、
確か2週間の実習だったと思います。IgA腎症(アイジーエーじんしょう)
の患者さんでした。小児科の次は血液内科でした。そこでの患者さんは
50代の急性骨髄性白血病の患者さんで、毎日病室へ足を運びお話を伺うのですが
まさに病魔と戦う姿に胸が熱くなる日々でした。
本当に辛いのは患者さん自身なのに、話を聞いてなかなか改善しない、先の見えない
状況の辛さを一緒に感じていたつもりでした(本当は何もわかっていなかったかもしれません)。
その患者さんは、化学療法として強い作用の抗がん剤を3つも4つも組み合わせて投与するので、
いくら注意深く用いても副作用を避けては通れません。その一つが正常白血球(好中球)数の減少で
あり、そのために起こる感染症、特に肺炎が結局は命取りになってしまうケースが決して
少なくありません。そうした感染から患者さんを守るために危険な時期には無菌室で治療を
行うことが理想的ですが、清潔を維持するために入室時には手指消毒をし、マスクをして、
専用の白衣に着替えて、専用のスリッパに履き替えて、ドア付近の粘着マットを踏んで入室しました。
私のグループは4月に実習させていただいたのですが、晩秋の頃にはその患者さんが亡くなられたことを
同学年の血液内科をローテーションしていたグループに聞きました。
とても切ない気持ちになったことと、医学の進歩はあるものの歯が立たないこともあることを
この時実感しました。それと同時に一生懸命話をしてくれた患者さんに感謝しました。
医者の師匠は患者さんだ!という言葉がありますが、まさにこのことです。
その患者さんは非常に残念な結果でしたが、私の医者人生の根幹になることを学んだ日々でした。