江戸時代の医師国家試験
今日と明日は医師国家試験の試験日です。学生時代特に国家試験の記憶はほとんどありません。
遠い試験会場だったな・・・とか、試験終わったら何しようかな?・・・とかを考えながら
受験していたと思います。そんな私の経験は置いておいて・・・江戸時代の話です。
司馬遼太郎の小説「胡蝶の夢」にも出てきます松本良順のお話です。良順は17歳の時に、幕府医官の
松本家へ養子にゆくこととなりました。良順の父、佐藤泰然(たいぜん)は今でいう順天堂大学医学部の
前身である佐倉順天堂を開いた蘭方医なのです。この縁組にチャチャを入れたのは漢方の総本家
多紀一族でした。「わが医学館で行う漢方医の試験に合格すれば、松本家への養子縁組を認めよう」と、
ただただ嫌がらせ?難題をふっかけて良順の婿入りを阻止しようとしたのです。
準備期間は2ヶ月、範囲は漢方の全領域という膨大なもので、蘭方のみを学んできた良順にとっては
難題だったに違いありません。ですが、負けず嫌いな良順は必死に取り組んで、わずか2ヶ月で漢方の
主要な古典を暗記したのです。試験当日、5人の試験管から発せられる質問は、すべて漢方の古典による
ものであり、かえってスラスラ答えることができたのです。簡単な問題であったら答えに窮していたかも
知れません。良順は自叙伝で医学館の門を出た途端鼻血を噴き出したそうです。よほど脳みそに詰め込ん
だのでしょう。結果良順はパスしており、幕府の監察も陪席していたからには、成績抜群の良順を
落とすわけにはいかなかったのでしょう。この後無事に松本家の養子になることはできました。
彼はこの後、新撰組の健康診断を実施したり、越後長岡藩の家老・河井継之助の銃弾を受けた後の診察を
行ったのも彼です。幕末の医学界は彼なしには語ることができないドラマがいくつもあります。