笑いすぎて死にそう
40歳以上の日本人17,152人に「どのぐらい笑うか」のアンケート調査を行い、その後平均5.4年間フォローした研究があります。週1回以上笑う人と比較して、月1回も笑わない人は年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙、飲酒状況で補正しても約2倍近く生命予後が悪い事が示されました。陰性感情(笑えない状況)は交感神経の緊張を高めて、心血管リスクとなります。逆によく笑う人は新血管系の死亡が相対的に少ない可能性があります。笑うことは免疫にも影響を与えるので、いろんな機序が重なって生命予後を良好にしているかもしれません。このアンケートでは新血管系疾患による死亡に有意差はありませんでした。笑う事が多かった群には、運動習慣があって、婚姻率が高く、社会的に孤立していませんでした。「幸せだから笑う」とは言えるのですが、「笑うから幸せになる」というのはまだまだエビデンスが不足しています。だいぶん昔の映画ですが、「パッチアダムス」をご存知でしょうか?ピエロが滑稽な格好で小児と接し、時に道具や芸を用いて小児の不安を軽減する事が報告されています。病院という空間で子供の笑顔が得られることで、親の不安が優位に軽減することも示されています。自分の子供だけではなく、赤の他人の笑い声ですら、ストレス軽減してくれることを示した研究もあります。自分が笑うことで他の家族をも幸せにする力があるのかもしれません。笑顔が素敵な人を見ると、こちらも思わず笑顔になるのは私だけではないはずです。そこで疑問に思ったのは「笑いすぎて死ぬ事があるのか?」という事です。紀元前5世紀の画家ぜウクシスは自分の描いた女神がユニークすぎて、それを見て笑いながら死んだと伝えられています。笑う事で失神することをgelastic syncopeと言います。笑うというValsalva手技(息堪えのようなもの)によって誘発された神経介在性湿疹の一つと解釈されています。非常に稀なのですが、不整脈の持病(QT延長症候群)のある患者さんが笑う事で徐脈が引き起こされ、それをきっかけに致死性不整脈(トルサデポアン)が起こり、死亡したと推測される症例報告があります。笑って亡くなるという症例報告はこれ以外には見たことはありません。つまり笑いすぎて死ぬということは一般的には考え難いのですが、万が一そのような事があれば論文になるほど珍しいという事です。一方、面白くないのに、突然笑い出して10分以上止まらない場合は大脳辺縁系、視床下部、脳幹の脳血管障害が起きている可能性もあります。英語ではprodrome of crazy laughterといい、狂ったように笑うのが症状とされています。いろんな病気がありますね。