背中が痛い!
この寒い時期になると、心臓血管外科医だった頃は、いつも身構えます。
「夏がく〜れば、思い出す〜🎵」のように明るい話題ではないのですが、
心筋梗塞、大動脈解離の発症が増えるのです。特に大動脈解離は発症して手術適応に
ならない場合もICUに入っていただき経過を診させていただき、血圧コントロールを
するのです。そのような患者さんたちは、だいたい「背中が痛い!」と訴えて救急車で
来られることが多いのです。背中が痛いとくれば、背中の筋肉を捻った?とか膵炎?とか
一般の医者は考えると思いますが、前職の影響か大動脈解離を真っ先に頭に浮かべて
診察することが多いのです。芸能人では笑福亭笑瓶、もんたよしのり、加藤茶、三波伸介、
石原裕次郎(敬称略)などがなったので名前は聞いたことがあるかもしれません。
大動脈解離は年配の人に多い病気ですが、働き盛りの人でも起こり得ます。血管の壁の構造が
弱い、マルファン症候群の人もハイリスクとなります。
大動脈は3層構造になっており、その壁が裂けることで血液が流れ込んでしまいます。
医者を受診しても4割近くの方が見逃されてしまいます。頻度は心筋梗塞の1/100にすぎません。
大動脈解離の痛みは血管に沿って移動するのが特徴的であり、背中のみならず、前胸部や腰まで
痛みが走ることがあるのが特徴です。胸と腹にかけて広い範囲で痛みが移動すれば大動脈解離の
可能性が高くなります。頸動脈まで裂けてしまうと脳梗塞になってしまいます。脳梗塞を見たら
大動脈解離も疑わなければいけません。足の方に裂けが進行すると足に血液がいかなくなりますし、
腸にいく血管が裂けてしまうと腸間膜動脈閉塞症と呼ばれる腸管が腐ってしまう腹痛に見舞われます。
また厄介なことに6.4%は痛みの訴えがなく、他の症状から疑わなければいけないので普通の医者は
診断が難しいと思います。当院では昨年開業1週目で胸部大動脈解離を診断したことがあります。
当院は造影剤を使用しないCTですが、明らかに動脈硬化の位置と血管壁の位置関係がおかしいので
今までの経験上の判断で救急搬送したところ大動脈解離でした。その方は今は普通に外来通院
なさられております。「冬がく〜れば、思い出す〜背中の痛み〜解離かも〜」