音楽と脳
いきなりですが、私は吹奏楽部でした。中学校は真面目に3年間トロンボーンを吹きました。
高校生も入部したのですが、友人たちとカラオケに行くという楽しさを覚えてからは2年生で退部
しました。正直続けるべきだったかなと今更思っています。ですが、今でもクラッシックは大好きです。
皆さんは、モーリス・ラヴェルというフランスの作曲家をご存じですか?「ボレロ」「亡き王女の
ためのパヴァーヌ」や「ダフニスとクロエ」などが有名だと私は勝手に思っています。
このラヴェルさんは交通事故にあいます。乗っていたタクシーが車に衝突して窓に頭を激しくぶつけた
のです。このころからラヴェルは作曲が困難になるのです。映画「ドン・キホーテ」の劇中音楽の
作曲の依頼を受けたものの、連作歌曲の1つを完成させるのがやっとで、彼の遺作となってしまった
のです。決してラヴェルが作曲できなくなったのではなく、頭の中には曲の構想が浮かぶものの
譜面に書き出せなくなったのです。原因は失音楽(症)という脳の病気です。
失語症なら知っているよとか聞いたことあるよという人が多いでしょう。失音楽も失語も言語や
音楽に関わる高次な脳機能のみが障害されているのです。ちなみに、知能や聴力は正常で、
楽器の演奏や声を発するための運動器官に麻痺がないことが診断の条件となるのです。ラヴェルには、
事故前から病気の兆候があり、ぼーっとする時間が増えて作曲のペースが落ちていたり、単語が思い
出せないという失語症の症状があったようです。それに加えて、事故によるけがや気分の落ち込みで
悪化したのです。事故から5年後に医師の勧めで脳手術を受けましたが、術後昏睡状態となり2週間も
たたないまま62歳でお亡くなりになりました。私は、ラヴェルの状況から原発性進行性失語(PPA)
ではなかったかと思うのです。症状は、言葉を思い出したり、物の名前、言語の理解の障害がゆっくりと
進行する病気です。残念ながらこの病気自体ラヴェルが亡くなって45年経ってから提唱された新しい
疾患概念なので診断されなくても仕方ありません。
実際に50単語ほどの手紙を書くにも辞書を引きながら2週間も苦闘するなど、書きたいことはあるのに
文字にできない、そして頭の中に鳴り響いている音楽を譜面に書き出せないという失語、失音楽が同時に
起こりラヴェルを悩ませていたのでしょう。言語と音楽は大まかには共通の脳部位に支えられています。
人間の脳って不思議なことばかりですよね。